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小説「ムンバイに消ゆ」最終回):片山通夫

第九章 終章 <2> 悪夢の日があってから、マムタ・デシュパンデは、部屋に龍もったまま、もう、数日が過ぎた。 あの日の少し前、父からの知らせを受けて、マムタは留置所からとき放たれた彰彦を出迎えに行った。久しぶりに見る彰彦は、日当たりが悪かったせいのか、青白い顔色で痩せていた。「ありがとう」と、彰彦はやっと言葉を発し、マムタの片手を強く握った。 その病的な彰彦の様子にマムタは、驚きを隠せなかった。...

小説「ムンバイに消ゆ」:片山通夫

第九章 終章 <1> お客を乗せたオートリクシャーは、高台の坂道をあえぎながら登り詰めて行くところだった。運転手は、歯を食いしばり、したたる汗を拭うことも忘れて、その急な坂道をエンジン音をふかせて煙を吐き出していた。登り切ったところに、その瀟洒な白い建物が建っている。「大丈夫?」とお客は運転手に声をかけた。「いつものことさ。この坂道はきつくていけねえ」 お客は、ここでいいわ、と言うと、ルピー紙幣を...

小説「ムンバイに消ゆ」:片山通夫

 アタルとランジトは、必死の形相で逃げまどうスラムの仲間たちを逃げ道に誘導し、バリケードとは反対の土嚢の袋が堆く積み込まれた壁に向かって、よじ登るように叫んだ。何人かが土嚢に飛び移ってはよじ登り、壁の向こうの砂場に飛び越えていった。...

小説「ムンバイに消ゆ」:片山通夫

第八章 混乱と蹉跌<10> その日の夜遅く、暗闇に紛れてスラムの周囲には特別に編成された治安部隊の一団が密かに進入の機会を窺って、接近を試みていた。拠点となっているスラムのバリケード付近では松明の明かりがこうこうと燃えていたが、見張り役は数人だけであった。...

小説「ムンバイに消ゆ」:片山通夫

第八章 混乱と蹉跌<9> マムタは火の手の上がった街の方角に目を向けたまま、じっと動かなかった。地響きのような轟音を耳にし、身のすくむ思いの中で、アキヒコヘの思いを募らせていた。アキヒコー人すら、自分では助けられなかったことへの無力感が、父への怒りとともにこみ上げてくるのだった。彼女は、アキヒコを守ると誓い、それはたとえ父に反抗してもやれることと信じていた。...

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michio_k

Author:michio_k
サハリン残留朝鮮人の生活をライフ・ワークに、ビデオ、写真、文章など、あらゆるツールを使って記録しているフォト・ジャーナリスト。